2012年12月17日(月)00時13分

【コラム】Xboxは何故日本で失敗したのか

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ロンチとディスクの傷

Ed Fries氏は、Xboxロンチの模様を良く覚えている。2002年2月22日の早朝。Fries氏とXboxチームの面々は、日本滞在時には珍しいことではなかったが、一睡もせずに渋谷のロンチ・イベントへと向かった。Bill Gates氏も来日して最初のXboxを手渡ししたが、Gates氏は約1ヵ月後に最初の子供が生まれる予定だったFries氏に、特別な贈り物を用意してくれた。

Ed Fries: 彼は私のXboxにサインをしてくれたんだ。「Edジュニアの最初のおもちゃ - Bill Gatesより」ってね。これがそうだ。宝物だよ。最初のXboxはすすけたような清色で、格好良かった。私の人生でも最高の瞬間だったよ。Xboxを発売して、その直後に最初の子供が生まれたんだ。

だが、事態はすぐ悪化した。日本のゲーマーから、Xboxがゲーム・ディスクに傷を付けるという苦情が寄せられたのだ。これは日本だけの問題ではなかったが、日本では本社のチームが予期しなかった騒動を巻き起こした。日本では中古市場が重要な位置を占めており、ディスクに傷が付くと価値が下がってしまうのだ。

Ed Fries: アメリカでは大した問題にはならなかった。欧米の会社と日本の会社は、基準が異なるのかもしれない。トレイの内部で回転し、ディスクの外周に環状の傷が付いてしまうんだ。これはゲームプレーには全く影響しないが、日本では買取価格が下がってしまうという問題があった。

売れ行きが芳しくない中、更なる悪いニュースが。

Kevin Bachus: 雲行きが怪しくなってきた矢先に、Microsoftはレイオフを実施した。これは極めて非日本的なやり方だった。彼らは極めてアメリカ流のやり方を貫き、ニュースの見出しを飾ってしまった。それが、「Xboxは日本のゲーマー向けのコンソールではない」という思いを強めてしまったんだ。「たまたま日本でも発売されている、欧米ゲーマー向けのコンソール」というイメージが固定した。

レイオフのニュースが広まるにつれ、Xbox部門の元社員たちが不当な扱いを受けたことを公に話し始めた。Microsoftのビジネス開発部ディレクターPar Singh氏は、ミーティングでXboxの売り上げが厳しい状況に置かれていることを理由に、早期退職プログラムを実施することを明らかにし、各自がデスクに戻った時点で人事部からメールを受け取った者は、即座にその指示に従うよう勧告したという。これは欧米流のやり方であり、日本流ではなかった。

2003年9月、Microsoftは元スクエア幹部の丸山嘉浩氏をSingh氏の後任として、Microsoft JapanのXbox部門の責任者に迎えることを発表。当時エンターテイメント部門で日本と欧州のマーケティングを指揮していたPeter Moore氏直属の部下となった。Xboxの日本への決意を新たにする再編である、とMicrosoft。

xbox.jpgXbox
文化的断裂

多くの外国企業が日本で苦戦を強いられてきたが、Microsoftもそんな企業の一つに過ぎない。だが、巨大なアメリカ企業が日出ずる国での成功を模索する過程で、やり方を間違えたことだけは確かである。

John Greiner: 日本は、非常にユニークで象徴的な市場だよ。何が消費者の心を掴むのか、理解しなければならない。日本流に合わせる必要があるんだ。Microsoft Japanの人間を何人か知っているが、彼らは理解している。しかし、多くの決断はアメリカで下されるので、彼らにとっても難しい仕事なんだ。日本人にとっては仕事をしづらい環境だよ。

日本人にXboxについて聞くと、殆ど無関心とも言える奇妙な反応が返ってくる。興味がないことだけは分かっていても、彼ら自身その理由が明確ではないのだ。

2012年のTeam Ninjaは、2000年のTeam Ninjaとは大きく異なっている。板垣氏はいなくなり、『Devil’s Third』に尽力している。板垣氏の跡を継いだのが、どちらもマルチ・プラットフォームである『Dead or Alive 5』『Ninja Gaiden 3』の開発を率いた早矢仕 洋介氏だ。

コーエー・テクモは、TGS 2012でも一際大きなブースを構えていた。3本の『無双』タイトルとスピンオフが、観客の注目を集めている。会場の騒音は物凄く、早矢仕氏の通訳は大声で叫ぶ必要があったほどだ。

私がMicrosoftと日本に関する質問をぶつけると、早矢仕氏は通訳を介す前からニヤニヤした微笑を浮かべていた。

早矢仕 洋介: ソニーと任天堂は、日本で生まれた日本の会社だ。Microsoftはアメリカ生まれのアメリカの会社だ。

例えばドイツに行くと、多くの人がベンツやBMWを運転している。アメリカに行けば、多くの人がアメリカ車を運転しているし、日本では日本車が人気だ。

特定の地域用に特定の地域で作られたハードウェアというのは、消費者に理解されやすい傾向がある。その土地で作られたハードウェアの自然な進化だよ。Microsoftが日本人の心を掴むことができなかった理由の一つには、それがあるかもしれない。

日本で生まれた物ではなく、日本製という感じがしないんだ。

ヨーロッパは、任天堂とソニーとMicrosoftの3社でバランスが取れている。恐らく、そのどれもヨーロッパ生まれではないからだろう。どれも同じ外国製だ。

360が悪いわけではないし、私自身360のゲームは大好きだよ。プレーしたい360のゲームも沢山ある。でも、一般的に言うと何かしっくり来ない。ソニーや任天堂のコンソールのような共感を得ることができていないんだ。

日本生まれではない、という点が全てだろうね。

Ed Fries: 世界中には様々な国があるが、日本は理解すればするほど、その困難さが身に染みる。日本の文化、日本の長いゲーム・ビジネスの歴史。文化的同調性。そういった要素が、確固たる地位のある日本のライバルとの直接対決に挑むアメリカ製品の立場を難しくしているんだ。

自らがその場に身を置いて詳しく学ぶほど、売り上げの低さにも驚かなくなっていった。360に取り掛かり始めた頃、私は日本の優先度は下げるべきだという主張に同意していた。我々が大きな成功を収めることはできない市場である、という事実を受け入れるべきだとね。日本にもある程度注目はすべきだが、大攻勢を仕掛けるべきではないんだ。もちろん、360に関しては異なる意見を持つ者もいたよ。

日本で多くの時間を過ごした私のような人間は、期待値を現実的なものに留めるものだが、レドモンドの本社にいる人間は、そうした現実とは切り離されている。彼らにとって、日本とは市場の30%を占める存在であって「それを諦めるなんてとんでもない、日本を勝ち取らなければならない」という認識なんだ。

ed.jpgEd Fries氏
最後の希望

無謀と見るとか勇敢と見るかは人それぞれだが、Microsoftは「日本問題」に大金を投じてきた。TGS 2008におけるMicrosoftメディア・ブリーフィングは、スクエア・エニックスによるXbox 360独占RPG『The Last Remnant』で幕を開けた。

MicrosoftのJohn Schappert氏がステージに上がると、グローバル・マーケットへのアピールを日本のゲーム・コミュニティに力説した。

John Schappert: Xbox 360はRPGが充実したコンソールになりました。『Tales of Vespyria』『Infinite Undiscovery』『Fable 2』『Fallout 3』『The Last Remnant』といったゲームが控えています。それも、2008年だけでです。

続いて発表されたのは、Tri-Ace開発、スクエア・エニックス販売のXbox 360独占JRPG『Star Ocean: The Last Hope』。今世代初のシリーズ新作で、なおかつXbox 36独占とは目を引く一撃である。『Baiohazard 5』。Q Entertainmentの『Ninety Nine Nights 2』、これもXbox 360独占。『鉄拳6』、2009年秋発売。タイトーのXBLA『Space Invaders Extreme』。『Arkanoid Live』。SNK PlaymoreのXBLAタイトル『Metal Slug 7』、『King of Fighters ‘98』が春の配信。コナミからは『R-Type Dimensions』。

そして2年後のTGS 2010。Microsoftのメディア・ブリーフィングは9月16日に行われた。Microsoft Japanのゼネラル・マネージャー泉水敬氏がステージに上がり、日本での形勢逆転の鍵を握る10本の日本製ゲームを発表した。

Kojima Productionsのプロデューサー松山氏は『Metal Gear Solid: Rising』のデモを披露した。後に開発がPlatinum Gamesに引き継がれ、『Metal Gear Rising: Revengeance』と改名されたゲームだ。今はどこに?発売は来年だが、日本でのXbox 360版の発売は見送られた。

是角 有二 (Kojima Productions、プロデューサー): 日本でのXbox 360版の発売が見送られた理由は幾つかあるが、具体的なことはお話できない。日本には、PS3のゲームをプレーするユーザーが数多く存在し、Xbox 360のゲームをプレーするユーザーもいるということだ。

続いて、Microsoft Game StudiosのPhil Spencer氏が登場し、日本製独占タイトルを5本発表。スパイクの『Fire Pro-Wrestling』が2011年発売。トレジャーの2011年配信のXBLAゲーム『Radiant Silvergun』。七音社のKinect独占タイトル『Haunt』。『Panzer Dragoon』の精神的続編という位置付けのGrounding Incによる『Project Draco』改め『Crimson Dragon』。Grasshopper Manufactureの最高経営責任者Suda 51氏による『codename D』が2011年にKinectで。

そして、今度はKinect向けの360独占タイトルの番。バンダイ・ナムコからはKinectロンチ・タイトルの『体で答える新しい脳トレ』。Q EntertainmentによるKinect独占タイトル『Child of Eden』。セガの『Rise of Nightmares』。そして、カプコンの『重鉄騎』は『Dark Souls』で知られるFrom SoftwareによるKinectタイトルだ。

こうしたゲームの売り上げはどうだったのだろうか?1本残らず、低迷するXbox 360を救うことはできなかった。『Crimson Dragon』は、未だ発売すらされていない。開発元であるGrounding Incのコメントを得ることはできなかったが、Microsoftは次のような声明を提供してくれた。

XBLAタイトル『Crimson Dragon』は、当初2012年6月13日の配信を予定していましたが、後に延期となりました。現時点では配信予定日は決まっていないものの、『Crimson Dragon』の進行状況には興奮しており、今後も開発チームの面々と共に完成に向けて尽力していくつもりです。

では、Kinect独占タイトルはどうなのか。殆どのKinectゲーム同様、日本はもちろん他の世界でも大きなヒットにはならなかった。これも驚くには当たらない。日本のパブリッシャーにオフレコで話を聞けば、誰もが欧米よりも居住空間が狭い日本では、そもそもKinectが売れることはないと言うだろう。Kinectをちゃんと機能させるために必要なスペースの広さがジョークになる欧米と違い、日本はそもそも見向きもしないのである。

kinect-japan.jpgKinectのテレビCM
今と昔

今年のTGSへの不参加を決めたMicrosoftの決断が示すのは2つ。つまり、TGSの重要性が低下していることと、次世代機の到来を控えたMicrosoftには発表すべきゲームがないということだ。と同時に、MicrosoftとXboxにとって、日本の重要性が低下していることの表れでもある。

展示されたXbox 360タイトルは24本。会場には全部で148本のRPGが展示され、シューターと呼ばれるゲームは21本。昨年は37本のXbox 360タイトル、その前は25本、そして2009年には40本、2008年には62本がTGSで展示されていた。

Microsoftは日本を諦めたのだろうか?2010年、Xbox部門の幹部Chris Lewis氏は、Microsoftが日本から撤退することはありえないが、「困難な市場」であることは認めた。

Chris Lewis: 日本は極めて競争が激しい市場だ。全ての競争相手が手強い。我々は、ソニーや任天堂の哲学や功績に大きな敬意を払っている。中でも、任天堂はWiiで新たな市場を切り開いてくれた。我々はそのハンドヘルド技術を、Kinectで進化させた。

Microsoftは日本におけるXboxの状況へのコメントは提供してくれなかったが、次のような声明が届いた。

ホリデーに向け、我々は地域ごとのパフォーマンスではなく、ワールドワイド市場(先日発表したブラック・フライデーの売り上げがその一例です)に焦点を当てています。

未来

次世代Xboxは、2013年クリスマスの発売が噂されている。Microsoftは再び、日本の独占タイトルに巨額を投資するのだろうか?再び「日本問題」に大金を注ぎ込むのだろうか?

John Greiner: 私なら、まず期待値を下げるだろう。リーズナブルな数字は?何台くらい売ることができるだろうか?チャレンジをするのは可能だが、Microsoftはあくまでアメリカ流の考え方で動くアメリカの企業なんだ。

Microsoft Japanの日本人社員はとても優秀で、彼らの仕事ぶりには感謝しているが、それが例え日本支部であっても、Microsoftの文化的要素を切り離すことは難しい。日本支部も、あくまでMicrosoftということだ。彼らにとっては困難な仕事が待ち受けているだろうね。

Ed Fries: 私なら、日本を諦めたりはしない。ソニーは今までにないほど弱体化しているから、それが次世代機にどう影響するか、様子を見る必要がある。任天堂はローエンドのハードウェアに移行したので、最高にパワフルなマシーンの居場所はあるはずだ。日本製ゲームの影響力も落ちているため、日本のゲーマーも欧米のコンテンツに以前よりもオープンになっているかもしれない。

私なら、Xboxのありのままの姿でいるだろう。何か違うものになろうとするのではなく、得意分野にフォーカスを絞ることだ。もし仮に次世代機がシューターをプレーするのに最適のコンソールで、シューターが最も人気のあるジャンルなら、その方向性で行く。スクエアのサポートを得ることができ、『Final Fantasy』を出してもらえたら素晴らしい。拒む理由は何もない。ただ、そのために何百万ドルというお金を費やしたりはしないというだけだ。

現実的なアプローチを取るだろう。アメリカのアニメ文化を見ると、純粋な日本文化がアメリカの文化に影響を与えていることが分かる。同じように、我々の文化も彼らの文化に影響を与えることができるはずだ。我々の製品が彼らに影響を与えることもね。自分自身に正直であるべきなんだ。だからといって、日本のデベロッパーと協力して日本向けコンテンツを作る必要はない、と言っているわけではない。だが、我々は己に正直でいるべきなんだ。日本がそれを受け入れてくれるなら、程度に関係なく素晴らしいことだ。それが私のやり方だよ。

Xboxを日本で成功させることができなかった人々に話を聞くと、そこには悲しみや後悔の念を感じるが、全体的には殆どの人が全力を尽くしたことを誇りに感じていた。確かに、目標はPS2とゲームキューブ、そしてPS3とWiiを超える売り上げを達成することだった。その目標は全くと言って良いほど達成できなかったが、だからといって何一つ上手く行かなかったというわけではない。Bachus氏が、日本で最も誇らしかった瞬間を語ってくれた。

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Kevin Bachus: 私がMicrosoftでDirectXに携わっていた時、日本に行くことになった。PCゲームのデベロッパーは少なかったから、とても難しかったんだ。日本でPCゲームの開発を増やしてもらうには、どうすれば良いのか?と考えたものだ。いつも秋葉原に行って色々なお店やゲームの記念碑を通り過ぎた。一つのフロアは全てPlayStation。次のフロアは全て任天堂。そこを歩き回ったよ。

2002年の2月、Xboxの発売日に外に出ると、いたるところでXboxのロゴを目にすることができた。地下鉄にはXboxの写真があり、ビルの側面にもXbox。秋葉原に行くと、私がこれまで何百回と通り過ぎてきた道路に、突如としてXboxのディスプレイが現れ、何事かと集まる人だかりができていたんだ。

あの時の気持ちは、言葉では表現できないよ。一番近いのは、自分の絵が国立美術館に展示されていることを知った画家のような気分だろうね。最高の気分だった。私の人生のハイライトだよ。

今では、Bachus氏とFries氏は2人とも、日本で過ごした日々を懐かしく思っている。

Kevin Bachus: 成功を収めた分野も多々あるんだ。極めて困難な闘いになることは最初から分かっていたからね。そういう意味では、苦戦したことに驚いた人は少なかったと思う。日本市場において、日本の会社とあれだけのことを成し遂げることができたのが驚きと言って良いくらいだ。非常に困難だったし、もっとできたはずだという失望はあるが、沈み行く船だと感じたことは一度もないんだ。

Ed Fries: 私は日本を愛しているよ。日本に行くのがいつも楽しみなんだ。とても陽気な文化だと思う。真剣なビジネス会議の場で、ハローキティのストラップを付けた携帯を目にするなんて、他では滅多にないことだからね。地下鉄でゲームをしている人もいるし、深刻になり過ぎない文化なんだ。ゲームにとっては最高の文化だよ。

Xboxにとって最高の文化になりえるのだろうか?Microsoftが最新コンソールで次なる攻撃の準備を着々と進めている今、その答えはすぐにも明らかになるだろう。

[ソース: Eurogamer]

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