本格的に動き始めたUbisoftトロント
昨年夏に設立が発表されたUbisoftのトロント・スタジオ。Assassin’s Creedを手掛けた事で一躍有名になったJade Raymond氏が陣頭指揮を執る事でも注目を集めたこのスタジオが、ようやく本格的に動き始めました。Gamasutraによるリポートを。
Ubisoftトロントの開設は約1年前に発表されたが、Assassin’s CreedのプロデューサーJade Raymond氏が率いるという情報以外、このスタジオは完全に沈黙を守ってきた。
先日Ubisoftは、代表作の一つであるSplinter Cellの最新作をこのトロント・スタジオが全面的に手掛けている事と、もう1本の未発表タイトルをモントリオールと共同で開発中である事を明らかにした。 今回Gamasutraは、未だに拡張を続けるUbisoftトロントの仕事場に招待され、スタジオの将来に向けたプランについて、マネージング・ディレクターJade Raymond氏、シニア・プロデューサーAlex Parizeau氏、そしてトロント・スタジオの延長に存在するTechnology GroupのRima Brek氏に話を聞く事が出来た。Ubisoftの新トロント・スタジオのロケーションに関しては様々な憶測が飛び交った。モントリオール・スタジオがサンローランのトレンディな通りに面している事から、このトロント・スタジオもクイーン・ウェストのようなお洒落な地区や、ディスティラリー地区のようなスタジオに改装しやすい工業地区が適当だろう、と多くの者が考えていたのだ。
だからこそ、スタジオのロケーションがブローア/ランズドーン地区に決まった時は驚きだった。クールなロンスバルス/ジャンクション地区とアネックス地区の中間に位置するブローア/ランズドーン地区は、閑静な住宅街で交通の便の良い場所だ。 更に、赤レンガや巨大な窓、天窓、だだっ広いフロア空間という、Ubisoftモントリオールを髣髴とさせるような、かつて工場だった建物が多く存在する場所でもある。だがUbisoftモントリオールと違うのは、スタジオの窓から見えるのは一般住宅ばかり、という点だ。向こうからもスタジオ内部が丸見えだろう。Jade Raymond: チームのコア・メンバーは全員、モントリオールから私と一緒に移動して来たの。もう慣れてきたけれど、一般住宅のすぐ向かいにあるこの巨大な建物で働くのは、とてもクールだわ。
スタジオのメイン開発フロアは2280平方フィートに及び、180名ほどのデスクが用意されている。中央には「ブレインストーム空間」と呼ばれる円形状のスペースがあり、ホワイトボードとモニターが設置され、わざわざ会議室に行かなくても、毎日の成果をプレーしたり意見を交わしたりする事が可能となっている。
パッと見はUbisoftモントリオールと良く似ているが、現在も建設中のスペースも残されている。Raymond氏によると、壁を取り除いたりして開発フロア空間を倍にすると共に、内外のアーティストによるアートを飾るエリアや、冷凍食品よりもマシな食事が取れるよう、ちゃんとしたキッチンを設置する予定だという。
Raymond氏は明確なプランを現実的に管理し実行するというアプローチを取っており、モントリオール・スタジオ時代のスター・プロデューサー扱いを非難していた者たちも驚くだろう。
Ubisoftトロントは今後10年間に渡って、オンタリオ政府からの融資とUbisoft自身からの5億ドルを超える投資を受ける事になっているが、Raymond氏はこれがとても贅沢な投資である事を認めながらも、最大限に活かすよう尽力していると語る。
Jade Raymond: とても良いポジションにいると思う。スタジオを作って携帯機向けなどの小さなプロジェクトをやる代わりに、最初から大作オンリーに絞っているのよ。
これが正しい戦略だと思う理由は、最初から最高の人材を惹き付ける事が出来るから。10年間でゼロから800人にまで成長させるという野心がある場合、最初から経験豊富な優れた人材を揃える事が必須。そうする事で新しい人材を正しく育てる事が出来るし、成功するにはそれしかないと考えているの。
Splinter Cell次回作をトロントに持って来る事は、適切な人材を引き入れるために重要な決断だった、とRaymond氏は語る。
Jade Raymond: ビデオゲームでは、殆どの人がモチベーションと情熱に満ちている。給料とかよりも、それが一番大事なの。でも、多くの人は私がここでAssassin’s Creedを作っていると思っていたみたいね!
適切な人材を引き入れるにあたって、まず最初に大作からスタートするという試みは、スタジオの成長にとって100%正しいものだった、とRaymond氏は信じている。携帯機やXbox Live、PSNなどの小さなプロジェクトは、スタジオを成長させるための「踏み石」としては適切ではない、と語る。
Jade Raymond: 携帯機やXbox Live、PSNには素晴らしいゲームやインディ・ゲームがたくさんある。そういうタイプのゲームを作るのに誰が一番適しているのか?というのは価値ある議論だと思うわ。一番クールなアイディアは、インディ・デベロッパーから生まれていると思う。
我々Ubisoftは、何をトロントに移すべきか、じっくり考えたの。基準は幾つかあったけれど、その一つがこの街に何がマッチしているか、という点だった。開発する場所は、そのゲームが誰にアピールするものになるのかという点に影響を与えるものなの。モントリオールや欧州のスタジオから出てくるゲームの多くには、「大陸」風味がある。例えば、Beyond Good and Evilはフランスでしか生まれないような、とてもヨーロッパ風のゲームだわ。そういう風に考えると、Splinter Cellはトロントにピッタリだと思う。
大作ゲームを開発する際には柔軟性に富んだチームのサイズが求められる(多くの大作は、最初は小さなチームからスタートし、徐々に人数を増やしていき、最終的に小さなチームに戻る)ため、Raymond氏は小規模な第2チームがモントリオールと共に共有の開発プログラムを使用して未発表作を開発中である事を発表した。この第2チームは、Wetを手掛けたA2Mから引き抜かれたLesley Phord-Toy氏が率いている。
Lesley Phord-Toy: 2つの大作を同時に完成させるというプレッシャーをスタジオに与えないように、スムーズな成長に向けて動いているわ。そうする事で、適切な人材を最初から揃える事に集中できるし、適切な部署に配置したり、教育したりする事にも力を入れる事が出来るの。この第2チームをフル・チームに成長させようとした時、核となるチームがしっかり出来上がっている事になるのよ。
Alex Parizeau氏はUbisoftモントリオールに5年在籍し、Tom Clancy’s Rainbow Six VegasとSplinter Cell: Convictionを手掛けてきた。我々が訪問する直前にUbisoftトロントに移ってきた彼は、ここトロントでSplinter Cell次回作の指揮を取っている。
Alex Parizeau: ワクワクしているよ。このプロジェクトには野心が溢れているし、Splinter Cellにはブランド力があるからチャンスなんだ。多くの経験豊富な人材を惹き付ける事が出来るんじゃないかと願っている。強力なコア・チームを中心としたスタジオに育て上げて行きたいし、Splinter Cellはその丁度良い土台になってくれるはずだ。1作目から強力な作品を作り上げるチャンスなんだよ。
トロントでSplinter Cellを作る際、プロジェクトには3つの柱が求められる。それは、チーム、技術、そしてデザインだ。Splinter Cell: Convictionを作り始めた時は、全く新しいハードウェアで今までとは違う技術を使い、革新的なデザインを用いたから、非常に困難だった。 数多くのリスクを冒し、報われたものもあればそうでないものもあって、開発が難航したのはそれが理由でもある。でもここトロントでは、技術面でもデザイン面でも強力な土台があり、コア・チームもある。だから、チームを成長させる事、Splinter Cell: Convictionの開発で確立された柱を基にしたプロジェクトを構築する事に集中出来るんだ。
Jade Raymond: 開発者は常に新しい事を一からやりたがるものだけど、強力な基盤がある場合、磨き上げる時間を確保する事が重要なの。最近成功を収めたゲーム機の大作を見てみると、違いは洗練されているかどうかという点にある。開発チームがプレーテストに時間を割いたかどうかが重要で、新しく作り直さずに済む強力な基盤が既に出来上がっているというのは、本当に恵まれているわ。
Parizeau氏と共にSplinter Cellプロジェクトに参加したのは、10年以上前にUbisoftモントリオールのテスターとしてキャリアをスタートさせ、すぐにRainbow Six: Raven Shieldのゲーム・デザイナーにまで登りつめた、Ubisoftトロントの新たなクリエイティブ・ディレクターMaxime Beland氏。
Maxime Beland: 開発初日からツールやデザインが揃っていると、ゲームを作り上げるのが極めて楽になるんだ。ツールが完璧だとか、何も変える必要はないとかいうわけではないけど、非常に強力な土台になってくれる。Convictionは現在好調で、適切な開発期間と人材を揃える事が出来れば、今後は素晴らしい作品に育っていくだろう。今はまだスタジオを築き上げている最中だから、今後6ヶ月以内に続編を出すような事は出来ないけど、Ubisoftは何よりもクオリティを優先させる事で有名なんだ。
Beland氏は、Assassin’s CreedとSplinter Cell: Convictionに途中から参加した「フィクサー」として知られている。
Maxime Beland: Convictionには2年以上関わって、Alexと共に方向性を変えた。それが「フィクサー」としての仕事だったのかどうかは、聞く人によって答えは変わってくるだろうね。
私がトロントの何に興奮しているかというと、(初代Splinter Cellを手掛け、今年Ubisoftを退社したディレクター)Clint Hockingのブログを読んでいて、彼がUbisoftモントリオールを離れた理由の一つが、居心地が良過ぎたために環境を変えようとしたという事だった。私と全く同じだったから、とても興味深いよ。ぬるま湯に使った状態ではなく、小さな会社にいながらにしてUbisoftのバックアップを受ける事が出来ている。 会社を一から作り上げるというのは初めての体験で、とてもワクワクしている。今までとは全く違う悩みを抱える事になるけど、それが開発者を成長させるんだ。どんな些細な問題でも解決するのが楽しいし、そこにスタジオを築き上げていくという挑戦も加わるわけだから、本当にワクワクさせられるよ。
だが、Ubisoft流のゲーム開発を叩き込むために未経験者を集める事が狙いではない。
Maxime Beland: Splinter Cell次回作のような大作の場合は、Ubisoft外部から経験豊富な開発者を雇い入れる事が出来るから楽しみなんだ。
我々自身も異なったメンタリティを学ぶ事が出来る。入社して11年にもなるからUbisoft流の開発方法は熟知しているけど、新しいゲーム作りの方法を持ち込んでくれる人たちと仕事をしたい。とても興味深いんだ。新人に教育するのと同じくらい、自分たちも開発者として成長する事が出来る。
Alex Parizeau: クールなのは、これまでの経験を活かして会社を作り上げていく事が出来る点だ。我々は成長しつつあるチームだが、勝手を知っている構造をベースにしているので、調整を加える事も出来る。自分たちで構造も学びながら会社を作り上げていくのとは、全く違うんだ。お陰でだいぶ楽だし、最初から強固なスタートを切る事が出来る。他の会社のスタートとはリスクのレベルが全く違うんだ。
自分たち自身のカルチャーを築き上げる事が出来る、最高のチャンスでもある。私やMax、Rima、Leslie、そしてJadeを反映させたカルチャーをね。そういうチャンスはキャリアの中でも滅多に手にする事が出来るものではないから、本当に興奮しているんだ。
Ubisoftのバックアップがあろうとも、2本の大作を手掛けながら、800人規模にまでスタジオを成長させていくのは大変だ。それでもRaymond氏は、スタジオ開設の発表を7月にした以外はメディアに取り上げられていないにも関わらず、既に2000を超える履歴書を受け取ったという。
Jade Raymond: 数字を揃える事が目的ではないの。数字は揃っている。幸運な事にUbisoftは他の会社のようなレイオフを行わずに済んできたし、現在もかなりの数の経験豊富な開発者が職を探しているわ。重要なのは適切な人材をピックアップする事。それはなにも経験や才能だけではなく、彼らの個性が我々が築き上げようとしているカルチャーにフィットするかどうかが重要なのよ。
では、トロント・スタジオが築こうとしているカルチャーとは一体どういったものだろうか?
Jade Raymond: Ubisoftのカルチャーは多文化だから好きなの。世界中から人材をリクルートしているし、トロント自体も多種多様な街だから、開発者それぞれの背景を取り入れるには最高の土地だわ。壮大な野心を持っているけど、あまり急ぎすぎずに適切な人材を選ぶ事が一番重要なのよ。
適切な人材が見付かったら、すぐに雇い入れる体制が整っているという。
Jade Raymond: 成功を収めたスタジオにいた様々な人間と時間をかけて話してきたけれど、成功したスタジオとそうでないスタジオの違いは、特定の役職を埋める為ではなく、適切な人材を雇える時は雇う事にあると思っているの。業界最高のアニメーターが職を離れたら、例えアニメーターを求人していなくても、我々は雇い入れる。最悪なのは、人材が必要になるまで待ってから、最初にやってきた人間を雇う事なのよ。
第2チームがあるお陰で、人材を雇い入れる際にも柔軟性を持たせる事が出来るようになった、とPhord-Toy氏は語る。
Lesley Phord-Toy: Alexのチームが求める人材と、私のチームが求める人材は全く違うの。同じリソースを巡って競争をしたりはしていないし、戦略的に見ても、少し違った人材をスタジオに招き入れる事が出来るチャンスなのよ。
Jade Raymond: LeslieのチームはSplinter Cellチームよりも先にプロダクションに入るので、プロダクションの人間を先に雇い入れる事が出来る。
Splinter Cellは少人数の精鋭チームがコンセプトを練っている段階で、Leslieのチームにも同じような少人数のチームがいるけど、同時にプロダクション・チームもいるの。だから、Leslieが最初に若手を雇い入れる事になるわ。 スタジオの資産戦略に関しても上手くやろうとしているの。この2作品を出荷した後はどうするのか?Splinter Cellの開発が佳境を迎えようとした時にどう準備するのか?Leslieのチームはあと1年ちょっとの間に幾つかの大仕事を成し遂げて、その後にはチームを分割して別のチームにするの。 スタジオの成長や人材教育を計画通り行うだけでなく、新鮮さを保つためでもあるのよ。一つの仕事を終えたら、次は別のクールな仕事に取り掛かる。スタジオを立ち上げたばかりだからといって、同じ人材が同じ作品やブランドを何作も作り続けるようにはしたくないの。
Maxime Beland: それに、テクノロジーだ。各チームで異なったツールやテクノロジーを身に付ける。それがトロント・スタジオが柔軟性を保つ上で重要になるんだ。即座にどんなエンジンにも対応出来るようになるからね。
Rima Brek氏はBeland氏よりも長く、12年もUbisoftに在籍している。プログラマーとしてキャリアをスタートさせた彼は、現在はUbisoftがモントリオールに構えるTechnology Groupで働いている。この会社はUbisoft内部チームのハブのような役割を果たしていて、テクノロジーやミドルウェア、ツールの開発を行っている。
Rima Brek: プロジェクトに何か必要になった場合、Technology Groupで協議して他のプロジェクトに当たらせたり、ミドルウェアやツールといった解決策を提示したり、外部ツールのフィードバックを与えたりする。Technology Groupが全てを把握している事が極めて重要なのよ。
Technology GroupトロントのヘッドというBrek氏の新たな役職は、一人二役のようなものだという。
Rima Brek: 私はここトロントにTechnology Groupの支部を立ち上げている仕事に関わっているけれど、スタジオ自体の立ち上げにも手を貸していて、プロダクション・チームやスタジオ全般が直面する可能性のある技術的な問題の処理をしているの。
Jade Raymond: Rimaがここトロントにグループを作ってくれてとても嬉しいわ。我々がここにスタジオを立ち上げる際、Ubisoftはここトロントにある映画界の才能を利用するつもりだという事を言ってくれた。
映画業界から人材を引っ張ってきて、そのままゲーム・プロジェクトを担当させて効果的な仕事を期待するのは、とても難しいの。最高のアニメーターやツールのプログラマーを連れてきても、プレーヤーが物語をコントロールするリアルタイムの環境で仕事をする場合、学ばなければいけない事が山ほどあるのよ。 そこで、Technology Groupが彼らをゲーム業界に即座に適応させていくの。Rimaは即戦力になる人材をチームに加える事も出来るけれど、同時にプロダクション・チームとも密接に関わっていくわ。そうすれば、有能な人材を最も効果的に活用する事が出来るのよ。
しかし、Technology Groupがどれくらいの規模になるのかはまだ分からないとRaymond氏は言う。
[ソース: Gamasutra]Jade Raymond: どれだけのチャンスが転がっているかによるわ。我々の戦略の一つは最高の才能を惹き付けるだから、そうしたスーパースターとも言える人材がRimaと仕事がしたいと言えば、Technology Groupを予定よりも大きくするかもしれない。その逆も然りだわ。
現時点では臨機応変に対応していく事になるわ。一番重要なのは最高の才能を見つけ出す事で、頭数を最初から決める事じゃない。才能溢れる人材なら、常に採用したいと思っているわ。

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